ヒューマニタス [著]山本亜季

■三つの物語で伝える誇り高き人たち

 冒頭に〈地上には人の営みの数だけ文化や風習が存在する〉とあるとおり、現代日本人の目には“野蛮”に映る風土のなかで誇り高く生き抜いた者たちを鮮烈に描く。時代も地域も異なる三つのエピソードから成る中編集だ。
 古代メソアメリカを舞台に双生児として生まれた盲目の少年の過酷な運命を描いた巻頭作。設定や絵面は一見ファンタジー風だが、凄絶(せいぜつ)なラストは生々しく胸に刺さる。
 冷戦下のソ連のチェス王者が主人公の2編目は、ぐっとリアル。収容所生活の容赦ない描写に尻の穴がすぼみ、国家権力の理不尽さ、思想統制の恐ろしさに鳥肌が立つ。
 そして出色の3編目。貿易船が難破し極北の地に漂着した英国人が現地の少女に救われる。文化の違いに戸惑いながらも徐々に集落になじみ、少女の天真爛漫(らんまん)さに惹(ひ)かれていく彼だったが、そこには越えがたい壁があり……。
 母国への帰途、彼は問う。〈なぜ、私たち人間は世界中に散らばって生きているんでしょうか?〉。50年後、自ら出した答えには人間への信頼と希望が詰まっている。
 新人ながら堂々たる筆致には風格すら漂う。異質なものへの不寛容と差別がはびこる今、読まれるべき物語だ。
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 小学館 700円